大判例

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広島高等裁判所 平成2年(う)194号 判決

弁護人の控訴趣意は,原判決は,判示第一の二,同第二において,被告人は,A女(当時16歳),B女(当時17歳)が,いずれも満18歳に満たない児童であることを知りながら,法定の除外事由がないのに,A女については平成元年7月24日ころから同2年3月10日ころまでの間,神奈川県大和市内のアパートオオギハウス102号室に,B女については平成2年1月8日ころから同年4月17日ころまでの間,前記オオギハウス102号室および同市内のアパート鈴木荘102号室にそれぞれ居住させ,その間同女らをして不特定多数の遊客を相手方として対償を受けて性交させることを業とするいわゆるデートクラブでデート嬢として稼働させ,もって,児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的で,これを自己の支配下に置いたもので,この行為は,いずれも児童福祉法60条2項,34条1項9号に該当すると認定したが,A女は,自らの意思で家出し,被告人らと共に神奈川で共同生活を送り,二人でスナック等の店をもつという計画を実現するために自ら積極的にデートクラブのデート嬢として稼働し,時に被告人に暴力を振るわれることがあっても,また被告人の許から離脱する機会が十分にありながらも離れなかったもので,これは,被告人がA女を支配するという関係よりも,両名の男女間の愛情と信頼によるものである。B女についても,同女は自らの意思で被告人らとの共同生活を営みデート嬢として稼働していたもので,かかる生活状況からいつでも離脱できたものである。したがって,被告人は,A女及びB女をして,その意思を左右し得る状態に置いたわけでも,被告人の影響から離脱することを困難にさせたわけでもないから,A女及びB女を「自己の支配下に置いた」ものではなく,その行為は児童福祉法34条1項9号に該当しないというのである。

記録を調査するに,つぎのとおりの事実が認められる。

被告人は,平成元年6月ころ,当時理容科の職業訓練生であったが勉学に身がいらずビリヤード場に出入りしていたA女と交際するようになり,同女が当時16歳であることを知り,また,妻と離婚する気もないのに,A女に「店を出して一緒に暮らそう。そのためには,金がいる。売春するのがいい。」等と何度も売春するよう勧め,その結果,A女に店を出す資金をためるために売春をすることを決意させた。被告人は,母親に反抗し,同年7月4日に被告人を頼って家出してきたA女を実母方に住まわせ売春の相手方を探したが,山口県内で自分で客を探して売春させていたのでは金にならないことから,大都市で売春させようと考え,神奈川県に住んでいる異父兄のC男を頼って上京し,同月24日ころからA女と共にC男方であるオオギハウス102号室に居住するようになった。

被告人は,A女を,ホテルに派遣されて売春をするいわゆるデートクラブ嬢・ホテトル嬢として稼働させることにし,電話でデートクラブと交渉したが,同女の実年齢をいうと雇ってくれないことがわかったので,被告人がデートクラブに電話をして,A女の年齢を20歳と偽って面接を設定し,A女にも偽名や偽の生年月日等を覚えさせ,デートクラブとの面接に付き添って,同年8月初旬,同女をデートクラブに採用させた。A女は神奈川県に居住していた間,東京都内のデートクラブで稼働し,継続的に売春しており,デートクラブも何軒か変わっているが,このころは最初と違い,既にデートクラブ業界のことがわかっていたため自身でクラブを探して契約している。

被告人は,自分が金を管理すると称して,A女がデートクラブから売春して戻ってくると,必ず客の人数と,店の取り分を除いたA女の得た売春代金を報告させた上,受け取った金をすべて被告人に渡すようにさせて,売春による収入をすべて手中に納めていたが,これを計画的に貯金することもせず,時々銀行の自分名義の普通預金口座に入金していたに過ぎないし,自身は,神奈川県に来てからは就労せず,支出は自己の妻子へ送る生活費までも前記の金に依存していたし,A女には些細なことで激怒して殴打する等の暴行を加えたり,「逃げてもすぐ捜し出す。そんなことをしたら,ただではおかん。家がどうなるかわかってんのか。」等と脅迫したりもした。しかし,同女は当初寄せた被告人への好意が次第に恐怖に変わっていくのを強く感じつつも,決局,売春をしながら被告人とのオオギハウスでの生活を続けていたものである。

被告人は,A女に対し,同女だけでは売春の利益が少ないとして,売春をする別の女を連れてくるよう命じたため,A女は,平成2年1月初旬に山口に戻った際,街頭でB女に家出をしないかと声をかけ,被告人とA女は,B女が17歳であることを知りながら,売春をさせる目的を秘して,神奈川県に一緒に行くようB女を説得し,同月8日同女をオオギハウスに連れて行き,同所で,被告人,A女,B女の三人で生活するようになった。被告人は,同月中旬,B女にA女が売春していることを初めて教え,B女にも同様にデートクラブで売春をするよう勧め,同女も断り切れず,A女と同様にデートクラブで売春をするようになったが,売春で得た金はすべて被告人に渡していたし,親元への連絡にも「どこで,なにをしているとかは言うな,書くな。」と被告人が指示していた。被告人は,B女とも性関係を持ち,些細なことで激怒しては暴行,脅迫に及び,A女及びB女の手にほくろ様の入れ墨をしたり,被告人の命令は絶対であるとか,出ていくときには被告人に300万円を支払う等と言う内容の誓書を書かせ血判を押させたりしている。

被告人は,A女が父親入院の事実を知って平成2年3月12日に山口県光市内の自宅に戻った後も,B女に売春を続けるよう指示し,同女はデートクラブで売春を続けていた。このころ,被告人は神奈川県にいないことが多かったとはいえ,B女は,他に行くところもなく,被告人を恐れてもいたため売春を続け,被告人の指示通り,銀行口座に金を振り込むなどしていた。被告人は,平成2年4月に神奈川県に戻った際,B女が売春代金の一部を被告人に秘してデートクラブの事務所の者に渡していたことを同女に白状させ,相手の男から金を取戻し,同女にデートクラブを変わるよう命令している。前記C男から被告人宛にオオギハウスより退去するようにとの強硬な申出があり,同年3月20日ころ右C男により被告人の荷物も鈴木荘102号室に移されたことに伴い,以後B女も警察に保護される同年4月18日まで同所で生活していた。

右の事実によれば,「A女にあっては,被告人とは男女間の愛情と信頼により,B女においては自らの意思で,それぞれ被告人との共同生活を営み,デートクラブのデート嬢として稼働していたもの」とは認められず,被告人が児童である右両名を自己の狡猾な策略にかけたともいうべきもので,児童がその心身に有害な影響を及ぼす行為にかかわり,そのような環境に入ることを未然に防止し,児童の心身の健全な育成保護を図ろうとする児童福祉法34条1項9号の趣旨,目的に照らしても,被告人が,児童であるA女,B女の両名に心理的な影響を及ぼし,その意思を左右しうる状態に置き,被告人の影響下から離脱することを困難にさせたものと認められるので,被告人の右所為は,同号所定の「児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的をもって,これを自己の支配下に置く行為」をしたことにあたると言え,原判決に所論指摘のような事実誤認はない。

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